ご挨拶

― 下山の時を大切に ―

名誉学長  原田 治子

 虫の声もめっきり聞かれなくなりました。涼風にのって聞こえてくる風鈴の音も、なんとなく澄んでいます。狭い庭の木々が残照に染まり、その間を抜けてくる風が秋の名残りを告げています。寂しい気持ちになり、30℃を超えた日々がなつかしくなりました。衣類は1~2枚でよし、洗濯物はすぐ乾く、寝具は軽いし涼しいところを探して昼寝はできる…。年寄りには過ごしやすい季節といったら、「あの暑さを忘れたか」と言われそうですね。

 2035年9月には、日本で皆既日食(月が太陽をすっぽり覆う)が見られるという。ああこれは無理、18年もこの世にいられない。2020年東京オリンピック、さてこれはどうだろう。若い時には全く考えなかった「人生の有限」を実感するこの頃です。そして思うこと。登山は人間の人生に似ているなと。

 希望、願望、よろこびや悲しみなど、様々な重い荷を背負って、後ろを振り返ることもなく山頂を目指した長い歳月。頂上からのみごとな景色を堪能した人もいたでしょう。途中に多くの忘れ物や落とし物をしてきたことを悔いた人もいたでしょう。しかし、現在は下山という共通な時期を、私たちは迎えているのです。下山というと何となく負のイメージがあります。でもそれは違います。

 身体のあちこちが故障したり、老々介護を余儀なくされたり、身近な人達との別れもあったり。長く生きていれば予期しなかったことにも遭遇します。しかし、現役から解放された今、「自分の意思を尊重できるゆとり」をわずかではあっても、だれもがみんな持てるようになったのです。みなさんがシルバー大学での学習を選んだのもその一例でしょう。これまで頑張ってきた「自分の今」を大切に生きているその姿はとても美しいです。

 駅のホームで偶然に出会った友人から渡された名刺。〇〇町会副会長、マンション理事、老人会会長…。肩書きがぎっしり。80歳を過ぎても自分の価値を他人に誇示して、自己満足をしているこの人が可愛想になりました。そして、「肩書きは人間」を共有し、お互いを尊重し合い、励まし合えるシルバー大学の仲間と、およそ25年を共にしている自分がとても幸せだと思いました。

 下山の道をみんなで、一歩一歩ていねいにあるきましょう。心すればその足もとには小さな幸せがたくさんあります。

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